ミツバチが結ぶ無限の可能性

ミツバチが結ぶ無限の可能性

インタビュー
一般社団法人 日本在来種みつばちの会 事務局長 藤原由美子さん
一般社団法人 日本在来種みつばちの会 事務局長
藤原 由美子 さん
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● 人生を変えた 好奇心の力

「ミツバチって巣から半径2〜3kmの範囲を飛んで蜜を集めてくるんですよ」と生き生きとした笑顔で話すのは全国組織の「一般社団法人日本在来種みつばちの会」事務局長の藤原由美子さん。貴重なニホンミツバチの保護活動を中心に、ミツバチの生態や自然環境について数多く講演し、ワークショップの開催や絵本・会報誌の執筆など幅広い世代に向けてミツバチをはじめとする昆虫の重要性、気候や自然環境の変化について強く訴えてきました。

 生き物好きな両親のもとに暮らし、生き物が身近にいた環境で育った藤原さん。「海外赴任が多かった父親から外国の生活や文化、動植物、自然環境の違いを写真やお土産を手にしながら話をするのが楽しかったです」と振り返ります。

 そして興味を持ったことに全力でチャレンジする性格だった藤原さんは学生時代は部活に熱中。大学卒業後、会社員として働き始めさまざまな業務を経験していくうちにある悩みを抱えるようになります。「自分が本当にしたいことはなんだろうと悩むことが増えていました。興味を持って取り組めることを学生時代にもっと突き詰めて考えていればよかったと後悔しました」と話します。これまで生きてきて感じたことや思い、幼い頃の記憶を遡ると、一つの答えに辿り着きます。「自分を見つめ直してみて、生き物や自然に関わることをしたかったということに気づきました」。

 しかし、現状を考えると、今から方向転換は難しいだろうとようやく見つけた夢を諦めかけてしまいます。

 そんな時、藤原さんのもとに大きな転機が訪れます。「ちょうどその頃、父から聞いた中南米の話に惹かれ、仕事をしながら上智大学のスペイン語講座に通っていました。そこで同じクラスだったのが夫でした。実家で養蜂場を営んでいる彼が熱心にミツバチの生態や養蜂場での話をする姿を見て、自分が探していた世界はこれだ、と直感しました」と夢が見えてきた瞬間でした。

●やりたいことは 何でもチャレンジ

 結婚を機に盛岡へ移住した藤原さん。家事と育児、そして旦那さまの養蜂のサポートに追われる忙しい毎日を送ります。「もっとミツバチのことを学べたらと感じていたとき、岩手大学農学部の『応用昆虫学研究室』で社会人大学院生の募集があることを知りました」。面白そうと感じたらどんなことにも全力でチャレンジしてきた藤原さんは受験を決意。旦那さまからも賛同を得られ、試験に臨みます。

「43歳という年齢が気がかりなのか、面接で試験官の先生方から『本当に大丈夫ですか』と何度も聞かれました。それでもミツバチについてを学びたいこと、研究して仕事に生かしたいことを必死に伝えました」。その熱意が通じ結果は合格。藤原さんは晴れて社会人大学院生として大きな一歩を踏み出すことになりました。

 研究室に入ると初めて見る機器や薬剤ばかりで戸惑いますが、若い学生たちに助けてもらいながら、目まぐるしい日々を送っていたと話します。「昆虫から健康に役立つ作用や物質を見つける研究をしていて、夜遅くまで実験することも多くて大変でした。入学時は2人の子どもが小学生だったので時間がいくらあっても足りませんでした。それでも周囲の支えもあってなんとか論文をまとめ、博士の学位を取得することができました」。とてつもなく無謀なチャレンジだったけどとても貴重な経験ができて達成感もひとしおだったと笑顔で語ります。

 大学院修了後、日本在来種みつばちの会の運営、修学旅行生や一般の方に向けての体験会を長年担当し、約7千人にミツバチと触れ合う体験をしてもらったといいます。「最初はハチを怖がっていた子たちが最後には『ミツバチって可愛いね』や『蜂の巣の中って温かいんだね』と触れ合っている姿は今でも心に残っています。やはり実際に体験をしてもらうことは重要だと思いました」。多くの人にミツバチと自然環境が深くつながっていることを感じてもらいたいと藤原さん。近年は虫を嫌厭し必要以上に駆除する人が増えたり、猛暑で蜜蝋が溶け、ニホンミツバチの巣が落ちるなど昆虫が暮らす環境の変化を危惧していると話します。

「やらずに後悔するより興味が湧けば挑戦し続けたい」と諦めず全力投球してきた藤原さん。旦那さまと共に地域の皆さんや全国にいる会員の方々とつながりながら活動していきたいと笑顔に。これからも広い空を飛び回るミツバチのように、自然への熱い思いを届け続けます。

プロフィール

1956年、神奈川県鎌倉市生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、結婚を機に盛岡に移住。51歳で岩手大学農学部大学院の応用昆虫学研究室にて博士(農学)の学位を取得する。日本在来種みつばちの会の事務局も運営しながら岩手県環境アドバイザーとしても活動。1997年絵本『はちみつ』(5ヵ国語に翻訳)、2019年絵本『ミツバチだいすきぼくのおじさんはようほう家』を出版。座右の銘は「人間は自然の一部」。今秋からは事務局内の資料室や養蜂場での体験見学を実施予定。 (一社)日本在来種みつばちの会 事務局(080-8254-8033)

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