前回は音が聞こえる仕組みから難聴の症状についてお伝えしました。今回は難聴による本人や周りの人たちへの影響についてお話しいたします。
聞くことはコミュニケーションの第一歩です。耳は、自分と社会をつなぐための重要なコミュニケーションの道具と考えて良いでしょう。人間らしい快適な生活を送るためには、日頃耳から入ってくる情報が欠かせません。
難聴になるとさまざまな社会生活に支障をきたします。たとえば、道路を歩いているときに車の走行音が聞こえず危険なことが起こったり、必要な音が聞こえない、または、聞き間違える頻度が増えていき、家族や友人とのコミュニケーションがうまくいかなくなったりなど、周囲の人たちとの関係に溝ができてくるということも起こります。何度も聞き返すことで相手に不快な思いをさせてしまうのではないかとか、上手く聞こえないせいで自信が持てず消極的になっていき、社会的に孤立し、うつ状態に陥ってしまうこともあります。
このように聴力の低下はさまざまな社会生活に支障をきたし、認知症のリスクが大きくなると言われています。補聴器などの聞こえの力を活用して、人や社会とのつながりを保ちながら、会話を楽しみ、活動の範囲が狭くならないようにしましょう。コミュニケーションが減ることで、こころや体の活力が低下してしまいます。介護が必要な状態にならないように心がけることが大切です。
聴力の衰えは、難聴の方自身だけではなく、ご家族やご友人にも影響を与えます。言いたことが伝わらなかったり、時には何も返事が返ってこなかったりします。その際に、無視をされたなどと捉えられてしまうこともあり、その結果、家庭内の雰囲気やお友だちとの関係が悪くなってしまったり、衝突の原因となることがあります。本人が自分の難聴に気づかないケースもあり、周りの人たちが対策を取らなければ、何も解決しません。身近にいる皆さんが様子に気づき、難聴の方とのコミュニケーションの取り方も身につけてほしいと思います。毎日生き生きと健やかに過ごすためにも、難聴への早めの対策が必要です。気になる症状があれば耳鼻咽喉科の専門医へご相談ください。
岩手医科大学医学部
耳鼻咽喉科頭頸部外科
亀井昌代
■取材協力