岩手には多くの偉人先人がいる。例えば、新渡戸稲造という人物。新渡戸さんは東大入試の面接で「われ太平洋の橋とならん」と志望動機を語った教育者・農政学者。日本の伝統的な道徳教育を流麗な英文で書いた『武士道』の著者として知られ、多くの外国人にも読まれ影響を与えている。
宮沢賢治も外せない。賢治さんは童話作家や詩人の他、花巻農学校で教鞭を取ったり、羅須地人協会を設立して農業技術の指導をしたりした。また登山や鉱物採集など活動範囲も広い。幻想と科学と哲学的な世界観に満ちた文学作品は亡くなってからだが評価を得、今や国内で知らない人はいまい。
かなり時代を遡るが奥州藤原氏の初代清衡公は、幼い頃から戦乱に翻弄されて育ったため、その経験や苦しみを平和思想に転化し、平泉を拠点とする奥州文化の礎を築き上げた。生きとし生けるものの安寧を願い、人種も国境も超え、文化や物や人の交流交易を実現させていた可能性が大きい。
源義経という人物もいる。若き日と晩年に平泉に身を寄せた源氏の御曹司は、源平合戦中に兄頼朝との関係が悪化し、追われる身となった。まさに平家打倒のためだけに世に現れたかのような悲劇の英雄、そう称されるが、今なお絶大な人気を誇っている。馬で崖を駆け下り、船上では八艘飛びするなどの身体能力、また相手の裏をかく奇策、頭脳戦で活躍。それはまさに日本史上最高峰のスーパーヒーローである。さらに謎学ロマン的視点も加味すれば、義経は極秘裏に平泉を離れ、北アジアの大陸へと渡り、あのチンギスハンに転身した可能性もある。だとすれば、その英雄度はさらに上がる。世界史上第2位となる広大な領土を手中に収めた皇帝と同一人物なのだから。
さて、現在進行形の偉人もこの岩手から誕生した。世界的偉人、いや超人。それが大谷翔平。これは歴史に残る事実である。実績や栄光の数々はあえてここでは記さないが、その世界を相手に戦い、結果を残し、広く評価を得、絶大なる人気を誇る人物はこの岩手において空前絶後、唯一無二だ。
野球マニアは大谷選手を「ベーブルースの生まれ変わり」とよくいう。なるほどとは思うが私としては大谷選手は同郷ゆかりの偉人先人の生まれ変わりだと考えたくなってしまう。冒頭から並べた郷土の偉人先人を見ると言いたいことはわかってもらえるだろう。
他意も悪気もなく、特にも私が推したいのは義経だ。翔平という名を「平泉を翔ぶ義経」とイメージし、ご両親が名付けたという話は有名だ。翔平という名がすでに義経由来なのだ。 「太平洋の架け橋」となり『武士道』で日本的道徳の影響すら与えている新渡戸さんも、独特な世界観で紡がれた文学が人種や宗教感を超えて広く認められる賢治さんも、広い視野とワールドワイドな感性と実行力の清衡さんも、もちろん大谷さんと重なるとは思うが、人生そのものと実績すべてが壮大なるショータイムであった義経=チンギスハンがもっともぴったりくる気がするのだがどうだろう。