秋田駒ヶ岳は火山である。岩手国体が開催された昭和45年9月17日未明に地震があり、18日夜に女岳(めだけ)が噴火した。「岩塊をつかんで返したらカッカと赤かった」とは地球学者が語った驚きのエピソードだが、打ち上げ花火のように噴出する火山弾を一目見ようと、横長根に登ったのんき者もいたとか、50年前は大らかな時代であった。
秋田駒ヶ岳は、1万年以前の噴火でできた火砕丘の総称である。最高峰は1637mの男女岳(おなめだけ)。男岳(おだけ)には駒形神社をまつり、草木1本生えない荒涼とした溶岩塊の山が女岳だ。イオウ鉱山跡の片倉岳。段丘を二つ重ねた小岳は、カメレオンの目で、今にもギョロッと動きそう。姿見ノ池の西に小さな南岳がある。そして、横長根から大焼砂・横岳・焼森・金十郎尾根は、それら火砕丘を囲む巨大な外輪山である。秋田側の田沢湖高原スキー場・田沢湖スキー場・中生保内(おぼない)から登るほか、雫石町から国見温泉コースがあり、どのルートを結んでもアルペンムードの大展望を味わえる。
秋田駒ヶ岳は「花の王国」である。チングルマの群生地「馬場ノ小路」を、誰とはなしに「ムーミン谷」と呼んだ。紅色のエゾツツジや日本特産で個体数の少ないオノエランも負けまいと咲く。高山植物の女王コマクサは大焼砂の西斜面をピンク色に染める。峰から峰へ花から花へと、夏が足早に過ぎてゆく。
ある日、「初登山にチャレンジしたい」と東京に住む夫婦がやって来た。ならば秋田駒ヶ岳が打ってつけである。国見温泉を発って7時間あまり「すごい景色、お花キレイ!」の連発は想定内として、宇宙工学のJAXAで働く夫君が下ってポツリ「登山がこんなに素晴らしいとは想像してなかった」。
お二人さんハマりましたね、秋駒の大空間が織りなす絶景と花のマジックに。