【箱根山(はこねやま)446.8m】気仙の風景、気仙タイム

【箱根山(はこねやま)446.8m】気仙の風景、気仙タイム

ほくほくトレッキング
阿部陽子のほくほくトレッキング
(公社)日本山岳会岩手支部 支部長 阿部陽子さん

 陸前高田市の箱根山を登った。復興のシンボル「奇跡の一本松」の高田松原防潮堤をスタートし、7㎞東にある箱根山を目指す。広田湾は、その名のとおり広い田んぼのような入り江である。東日本大震災から十余年を経て、カキ・ホタテの養殖棚が築かれた。

 米崎町のリンゴ畑にさしかかると、陽のあたる傾斜地に沿って道がくねり、気仙大工の技をつくした瓦屋根の日本家屋がだんだんと建ちならぶ。黄色いユズと柿は秋の華やぎ、春は孟宗竹が食卓を飾るだろう。「素晴らしい情景ですね」農作業の女性に声をかけると、うちのユズは4年目で実をつけたと微笑んだ。のどかな気仙タイムに浸って、気仙の景色を愛でながらぶらぶら歩く。私が住む城下町盛岡と一味違う幸福感であった。

 陸前高田・大船渡・住田・気仙沼(宮城)を総称する気仙地方は、昔から豊かな土地柄であった。奈良時代に金が発見され、大量の産金により気仙五金山と呼んだ。いつぞや岩井沢由美子さんが「玉山金山跡に水晶探しに行きます。子どもが石っこ好きで…」と呟いたとおり、良質な水晶も産出した。

 市民の森は、標高250mの大駐車場の「杉の家はこね」から始まる。茅葺き屋根の気仙大工左官伝承館は必見だ。煤で黒光りして、とても新築とは思えない。説明では、土間の囲炉裏に薪をくべ、日々燻(いぶ)し続けているのだそうだ。隣接した漆喰の蔵には気仙大工左官の道具を展示、庭のガス灯「3.11希望の灯り」に、震災で失われた犠牲者の追悼と復興への願いをこめる。

 さらにてくてく登る。途中の箱根山展望台は、広田湾や唐桑半島を一望する絶景ポイントだ。駐車場から鉄塔道と並行する急坂をたどれば山頂に着く。対する峰に豊漁龍神の箱根山神社を祀る。

 願わくは、私も気仙大工の家に住んでみたい。

箱根山
広田湾と箱根山にほれぼれ。見知らぬ男性の庭で採らせてもらったユズは憧れの芳香を放つ、おじさんありがとう

この記事をシェアする

Facebook
Twitter