【第69回 須川岳 1626.4m】三つの山名 個性三とおり

【第69回 須川岳 1626.4m】三つの山名 個性三とおり

ほくほくトレッキング
阿部陽子のほくほくトレッキング
(公社)日本山岳会岩手支部 支部長 阿部陽子さん

 岩手・秋田・宮城の三県にまたがる雄大な山がある。奥羽脊梁山脈の成層火山の「須川岳(すかわだけ)」だ。三県三とおりの山容と特性をもち、山名もそれぞれ個性的である。

「栗駒山」という名は、春の到来を告げる雪形・天馬に見立てた宮城の呼び方だ。秋田では、山嶺を仏様と崇めて「大日岳」。なめると酸っぱい湯にちなんで岩手が酢川(須川)岳と呼ぶ。山域全体で登山口は9つ。どのコースを巡っても温泉に行きつく。

 岩手側から登る場合、一関市の国道342号を西進し、真湯(しんゆ)温泉から須川高原温泉の駐車場を目指す。かつて混浴だった乳白色の露天風呂は、男女それぞれに区切られ利用しやすくなった。

「そんな好い時代は過ぎ去った」見知らぬおじさんのジョークだった。源泉がボコボコ噴きだす大岩の横から湯の路を登っていく。

 木道を敷いた名残ヶ原は、可憐な高山植物が咲く広大な湿原だが、葦がはびこり陸化しつつある。奥に鬼の形相でそびえ立つ岩塊が火口丘の「剣岳(つるぎだけ)」である。明治41年の閉山までイオウ採掘で沸いたこの不毛地帯は、爆裂のパワーと明治の産業を語りつぐのだった。

 青白い昭和湖は、昭和19年の火山活動でできた火口湖だ。湖から天狗平の尾根へ直登する須川コースは有毒ガスの噴気で危険なため通行できない。苔花台(たいかだい)の分岐からゼッタ沢を渡って産沼コースを進む。

「目のピリピリ感は、何?」いつぞや温泉の湯で顔をぬぐい、目に沁みて困ったことがある。聞いてびっくり泉質がpH値2.2の強酸性だという。酢っぱい湯が須川となり、湯尻沢を流れて磐井川にそそぐ。

 山頂の三角点は一等。うれしいことに点名が岩手の名称「酢川岳」だ。「神の絨毯」と絶賛される紅葉期は全山が燃える。360度の大展望に皆がホレボレ。岩手県民の私はもちろん「須川岳」でいこう。

残照を浴びる晩秋の須川岳。湯のにぎわいはいずこ、大日様のお導きで天馬のいななきを春にきく

この記事をシェアする

Facebook
Twitter