【霞露ヶ岳 (かろがたけ)504.2m】仏が護るいのちの岩礁

【霞露ヶ岳 (かろがたけ)504.2m】仏が護るいのちの岩礁

ほくほくトレッキング
阿部陽子のほくほくトレッキング
(公社)日本山岳会岩手支部 支部長 阿部陽子さん

 白い龍のように延びた不気味な霧が山田湾に忍びよる。三陸沿岸に冷夏をもたらす北東風は山背(やませ)の正体である。船越半島の突端にまとわりついたガスも遠退き、櫛形とか亀の甲羅にたとえる巨大な岩礁の頂が、今しがた全容を現わした。「霞露ヶ岳」である。その名を知った登山者は、霞と露の神秘性に魅かれ「登ろう、必ず」と心に秘める。

 登山口は二つ。初めて登るなら、荒波が砂礫(されき)を漉(す)くって転がす轟音の漉磯(すくいそ)海岸から出発しよう。その残響に急かされながら沢向こうの新しい杭より南斜面に取りつく。ジグザグの路を40分登って、赤みがかった大迫力の断崖絶壁、赤平金剛の上部に立つ。展望地はマツの樹幹から大海原を眺めるビューポイントなので、しばし小休止。運が良ければオジロワシやオオワシの飛翔を目撃できるかもしれないけれど、長居は禁物、体が冷える。海抜0mから高さ500mを一気に登る漉磯コースは、太平洋の海原を眺め、豪快な潮騒をきく2時間強のコースだ。「おカロさま」と呼ぶ山頂直下の巨岩が奥宮である。

 二回目は、大浦地区の霞露ヶ岳神社と秀全堂(しゅうぜんどう)に手をあわせ、奥の杉の造林地より進む。お堂は、牧庵鞭牛と時を同じく修業を積んだ若き僧、智芳秀全が、飢餓に苦しむ人々を救うため、1738年に入滅して即身仏になったその地である。笑える「ヘッツォ石」を経て、標高247m点の霞露ヶ岳参道口に至る。2km続く参道にマツの巨木があり、分岐した尾根には二等三角点がある。

 冷夏の予兆だろうか、ヤマセが樹間を舐めていく。フォーカスのかかる肌寒い頂で、悟りを得て仏になった秀全の声を耳にした。野鳥のさえずり、光の中で乱舞する小さな虫たち、可憐な草花をなでる潮の香。霞露ヶ岳は、仏が護る命の岩礁に他ならない。

霞露ヶ岳
霞露ヶ岳があればこそ、山田湾にカキもワカメも帆立も育つ。岸壁では釣り人がゆったりと思惟の時を過ごす

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