正月に黒森神社の境内で神おろしの舞いを見た。神楽衆は神社の境内で、権現様に山の神霊をうつし、舞初めを奉納する。
その昔、百数十本の巨大な杉や松の常緑樹が茂る黒森山は、神の依代とする黒い森であった。神仏習合の奈良時代より、人々は高さ310mの小さな森を見上げ、キラキラ湧きたつ神力を感受したに違いない。そもそも山の神は人間の目には見えない。「ならば人間に見えるよう獅子頭に化身しよう」。こうして権現様は、山の神と人間界をとりもつ重要な役どころをになった。

文献によれば黒森神楽の発祥は室町時代中ごろで、そこから獅子頭は代替えをくり返す。お役目を終えた頭を「ご隠居様」と呼び、1485年以降22頭のご隠居様が保存されているという。そもそも神は老化と無縁なのに、高齢化した権現様が隠居するという落としどころが面白い。
登る場合は黒森神社の駐車場から出立してもいいけれど、宮古市山口公民館から歩くことをおススメする。古黒森との分岐に掲げた案内板「小文書によって復元した黒森山案内絵図」が簡潔でわかり易く解説している。紫陽花の道や古黒森を通って見所をおさえながら登れば、黒森山の物語性がどんどん膨らんでいく。
いよいよ本殿へ向かう。本殿右奥の薬師水から上部に進むとご神体の御祖母杉が現われた。その先に、落雷にあってなお外殻を残す御祖父杉だ。林道の広場から左側の斜面に取りついて300m点まで登り、さらに北進すれば山頂に着く。巨大な常緑樹ドームの黒森山は、田畑を潤す山口川の水源であり、航路の目印や魚場の目標となる当山でもあった。
神楽のあと、お獅子に頭をパクッとかんでもらい、しみじみと夢想した。「権現様地球をかんで!そしたら世界中に幸せが来る」。





